体温とパフォーマンスの関係|運動科学で読み解く“ベストな体の温め方”

「なんだか今日は体が動かない」「トレーニングの入りが重い」——そんな経験はありませんか?
実はその原因、体温にあるかもしれません。体温は筋肉の動き・神経伝達・集中力など、運動パフォーマンスの土台を左右する大切な要素です。
16年間、プロアスリートから一般の方まで幅広く指導してきた私の経験からも、「体温をどう扱うか」でトレーニングの質は大きく変わります。
この記事では、体温がパフォーマンスに与える影響を運動科学の視点で解説し、具体的にどんな準備をすれば“最高の状態”を作れるのかを紹介します。
「ウォーミングアップの意味を理解して、パフォーマンスを安定させたい」「トレーニング効果を最大化したい」という方は、ぜひ最後まで読んでください。
体温がパフォーマンスに与える影響とは?

運動時のパフォーマンスを左右する要素は多くありますが、その中でも「体温」は見落とされがちな基本要素です。
人間の身体は、わずか1℃の体温差で筋肉や神経の働きに明確な変化が起こります。
筋肉の温度が上がると“出力”が上がる
筋肉の温度(筋温)が上昇すると、筋収縮に関わる化学反応が活発になり、力の発揮効率が高まります。
筋温上昇による生理的変化
- 筋収縮速度が上昇(動き出しがスムーズになる)
- 酵素活性が高まり、エネルギー産生(ATP合成)が促進
- 筋肉内の摩擦抵抗が減り、動作が軽く感じられる
- 神経伝達速度の向上により、反応が速くなる
つまり、体が温まることで「反応速度・筋出力・動作のキレ」が揃い、トレーニングや競技中のパフォーマンスが安定します。
体温が下がると何が起こるか
一方で、体温が低い状態では神経・筋肉の働きが鈍くなり、思うように体が動きません。
低体温下で起こる主な問題
- 筋肉の伸張性が低下 → 肉離れ・捻挫のリスク増
- 筋出力の低下 → 重りが重く感じる
- エネルギー代謝が低下 → 疲労が抜けにくくなる
- 集中力・判断力が低下 → 反応の遅れが生じる
特に朝トレーニングや冬季は体温が平常より0.5〜1℃低下しており、準備を怠ると動きが硬く感じやすくなります。
体温と神経・代謝の関係
筋肉だけでなく、体温は神経系・代謝システムにも大きな影響を及ぼします。
神経伝達と反応速度の関係
体温が上昇すると、神経細胞間の伝達がスムーズになり、身体の反応速度が向上します。
これは「ウォーミングアップをすると動きが軽く感じる」理由の一つです。
神経系が温まると起こること
- 運動神経から筋肉への信号が伝わりやすくなる
- 筋出力の再現性が高まり、フォームが安定
- トレーニング開始直後から最大出力を発揮しやすくなる
これにより、特に瞬発系の競技(スプリント、ジャンプ、ウエイトリフティングなど)では初動の質が向上します。
体温と代謝の関係
体温が1℃上がると、基礎代謝量は約13%上昇するといわれています。
つまり、温まった状態の方がエネルギー消費効率が良く、脂肪燃焼も活発に。
代謝面でのメリット
- エネルギー供給が安定し、スタミナが持続
- 筋グリコーゲンの利用効率が向上
- 脂質代謝が活性化し、持久系のパフォーマンスも安定
特に減量期やボディメイク中のトレーニングでは、体温を意識することで「動ける脂肪燃焼体質」を作るサポートになります。
理想的な体温とウォーミングアップの目安

体温を効果的に上げるためには、「どの程度温めるか」を把握しておくことが大切です。
理想的な筋温は約38〜39℃。これは「軽く汗ばむ」「呼吸が少し上がる」程度の状態です。
体温を上げるためのウォームアップ例
| 種類 | 内容 | 目安時間 | ポイント |
|---|---|---|---|
| 有酸素的準備運動 | バイク・ジョグなど軽度な有酸素運動 | 5〜10分 | 呼吸が少し上がる程度に |
| 動的ストレッチ | 関節を動かすストレッチ | 3〜5分 | 反動をつけて動かす |
| メイン種目の軽負荷セット | トレーニング動作のリハーサル | 2〜3分 | 神経系を慣らす |
この流れで10〜15分を目安に行えば、筋温・心拍・神経系が理想状態に整います。
正しいウォーミングアップの方法について、もっと詳しく知りたい方はこちらをご覧ください。
▶ ウォーミングアップの効果とやり方|パフォーマンスを最大化する準備の科学
ウォーミングアップ時の注意点
- ストレッチは静的(止める)より動的を選ぶ
- ウォーミングアップ後は冷房や風を避け、体温を下げない
- トレーニング間の休憩は5分以内を意識
- 冬場は上着を着たまま軽く動き始めるのも効果的
これらの工夫で、ウォームアップの効果を最大限に活かせます。
パフォーマンスを維持するための体温コントロール

体温を保つための実践ポイント
トレーニング中
- セット間で完全に止まらず、軽い動きを続ける
- 冷水ではなく常温〜ぬるめのドリンクを選ぶ
- 汗をかいた後は、すぐに乾いたタオルで拭き取る
トレーニング外(環境面)
- 冬季は体幹部を保温するウェアを活用
- エアコンの直風を避ける
- ウォーミングアップ後に移動する場合は、上着で保温
「温める」だけでなく「冷やさない」工夫が、体温管理のポイントです。
時間帯と体温の関係

体温には日内リズム(サーカディアンリズム)があり、時間帯によって運動パフォーマンスが変化します。
朝トレと夜トレの違い
| 時間帯 | 体温 | 特徴 |
|---|---|---|
| 朝(6〜9時) | 低い | 代謝・反応速度が低め、怪我リスク高 |
| 昼(12〜15時) | 安定 | 集中力・体温ともに安定期 |
| 夕方(17〜19時) | 高い | 体温・筋温ともにピーク、パフォーマンス最適 |
トレーナー目線のアドバイス
- 朝トレ派は、長めのウォーミングアップを行う
- 夜トレ派は、短時間でも高強度のトレーニングが可能
- 試合や本番が朝の場合は、数日かけて“朝型リズム”に体を慣らす
自分の体温リズムを理解することが、安定した結果を出す第一歩です。
まとめ|「温まった体」が最高のパフォーマンスを引き出す
体温は単なる「体の状態」ではなく、パフォーマンスを左右する科学的なスイッチです。
筋肉・神経・代謝のすべてが体温の影響を受けており、わずか1℃の差がトレーニング効果を変えます。
- 筋温が1℃上がるだけで筋出力・神経伝達が向上
- 体温が低いと怪我やパフォーマンス低下のリスク
- 理想的な筋温は約38〜39℃、軽く汗ばむ程度
- ウォーミングアップは「有酸素→動的ストレッチ→軽負荷セット」が基本
- 冷やさない工夫も重要
体を温め、神経を整え、集中して動ける状態を作ること。
それが、どんな種目でも結果を出すための「土台」です。
読んでくださってありがとうございました。
今日のトレーニングで「体を温める意識」を取り入れて、パフォーマンスを一段上げたい方は、ぜひこの記事を参考にしてみてください。
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